GCOE外国人研究者等セミナー

森本 雄祐(ナノ生体科学講座 プロトニックナノマシン研究室 (難波研究室))

演題 Advances in preparation and imaging of frozen-hydrated specimens for cryo-electron microscopy
演者 Mike Marko
(Research Scientist IV, Wadsworth Center, Albany, NY, USA)
日時

2007年 9月6日 (木) 11:00-12:00

場所 ナノバイオロジー棟 3階セミナー室






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報告

  低温電子顕微鏡を用いたイメージング法を用いると、細胞やオルガネラについて、生物にとって自然に近い機能状態で高分解能の構造情報を得ることができる。 しかしながら、電子線が透過し得る細胞の大きさの制約と、凍結生物試料を適当な薄さにすることの難しさから、その実用性は制限されている。大腸菌の低温電 子線トモグラフィーにおいて、集束イオンビーム(FIB: focused-ion-beam)が凍結細胞を薄くするために有用な手法であることが示された。
 低温電子顕微鏡は、凍結生物試料の構造解析手法として広く用いられるようになっている。細胞内オルガネラやバクテリア、真核生物の縁部などの凍結試料に ついて、-60度から+60度までの傾斜シリーズ電顕像から、トモグラフィー解析によって立体像再構成が可能となっている。しかしながら、低温電子顕微鏡 では電子線照射ダメージを極力避けるよう電子線照射量を低くするため、コントラストの低いイメージとなり、個々のイメージには分解能に大きな制限があるた め、多数の画像の平均により高い分解能を達成する。この電子線照射量の問題は、立体像再構成のために複数枚の試料画像が必要となるトモグラフィーでは、画 像平均が使えないため、より厳しいものとなる。しかも、低温電子顕微鏡が高分解能の生物試料イメージングツールとなるためには、生物試料から一定の薄さで 凍結試料を作成する手法が必要となる。
 現在主に用いられている試料作成手法はミクロトームである。しかし、この手法は、難しさや効率の悪さ、さらにはより根本的な点においていくつかの深刻な 欠点をもっている。ダイヤモンドナイフによる傷や裂け目のような物理的な損傷を与えるという欠点があり、これらを完全に取り除くことは難しく、構造の詳細 は不明瞭になりがちである。さらには、トモグラフィーの結果はダイヤモンドナイフで切った凍結試料の形状によっても影響を受け、部分的に曲がったりするこ とがある。より深刻な傷の原因となるのは、試料の切断方向への加圧である。加圧は試料の性質により変化するため、正確に判断することが困難である。
 そこで、三次元イメージングにおけるミクロトームの欠点を克服するために、FIBを用いることが考えられた。FIBは材料科学において、電子顕微鏡用試 料をつくるために一般的に用いられている。試料は真空中で主にガリウムイオンビームを照射され、スパッタリングによって薄くされる。SEMとFIBを組み 合わせることにより、試料の表面形状のイメージングが可能となる。FIBによって加工した生物試料をイメージングした研究は過去にもあるが、試料の表面だ けを見ている。Marko博士らの研究では、FIBによって薄くした大腸菌凍結試料について、トモグラフィーによる三次元像再構成が行われた。
 FIBは、凍結生物試料の表面に大きなダメージを与えることなく、さらにはミクロトームで問題になるアーティファクトなしに、低温電顕トモグラフィーの ためのイメージングにとって適当な厚さにすることができる。繊細なイオンビームによる試料表面へのダメージを厳密に除外することはできないが、加工する表 面の10 nm以内に注入することのできるガリウムイオンビームの細さによって、試料へのダメージは制限される。以上のような理由から、FIBの極低温電顕トモグラ フィーにおける有用性が示された。
 今回のセミナーは、極低温電顕トモグラフィー技術が生体試料の構造解明ツールとして有用であることを示すものであり、非常に興味深い内容であった。
 
References
[1] Marko, M. et al., Nat. Methods 4, 215-217 (2007).
[2] Ting, C. S. et al., J. Bacteriol. 189, 4485-4493 (2007).

 


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