COE海外派遣 レポート

 

前田 貴子(個体機能学講座 発生遺伝学グループ M2)
派遣期間:平成16年7月27日-8月13日(18日間)
派遣目的:1. Cold Spring Harbor Laboratoryで開催されるStem cell courseに参加




 私が参加した Stem cell course は、Cold Spring Harbor Laboratoryのbunbaryで2週間開催されました。参加された教授陣は、現在世界の第一線で活躍されている方々ばかりでした。生徒は、世界中から集まっており、修士過程から博士過程、助教授まで様々でしたが、20人のみの少人数でした。講議は、前半と後半に分かれており、前半でその分野の背景を学び、後半では、最先端の知識を学びました。一方的に講議を受けるのではなく、分らないことや疑問点があったら、教授であれ生徒であれ、みんなすぐに質問し、納得いくまでとことん議論していました。休憩時間や食事の時間に も、教授陣や他の参加者と、お互いの実験の話などをして、とても興味深かったです。講議の内容も、ES細胞から様々な組織幹細胞、癌細胞などと幅広く、非常におもしろく勉強になりました。また、参加者どうし、知り合いになれたことも良かったと思います。私自身は、特にES細胞の未分化維持機構や始原生殖細胞 (PGC)の起源に興味があるので、Austin Smith博士やAzim Surani博士、Anne McLaren博士の講議を受けることができ、勉強になりました。
 今回のstem cell courseに参加して、幹細胞について広く知ることができ、新たな興味をもつことができました。この参加をきっかけとして、今後もES細胞やPGCに限局することなく、様々な幹細胞について勉強し、自分の研究に生かしていきたいと思います。


lectureを受けていた建物

Stem cellの講議で特に興味深かった講議の要約を書きます。
・ PGC(始原生殖細胞)の決定について   Azim Surani博士(University of Cambridge)
 マウスにおいて、PGCは、まず6日胚の胚体外外胚葉が発現するBMP4・BMP8bによって、胚体外外胚葉と接するエピブラスト細胞にPGCの前駆細胞が誘導されます。しかし、この前駆細胞はlineageが制限されておらず、PGCと体細胞(胚体外中胚葉、尿膜)の両方になる能力を持っています。7.25日胚になると、尿膜の基部にPGCが形成され、その後、PGCは後腸に入り、細胞増殖を繰り返しながら、生殖隆起に向かって移動します。
そして12.5日胚までに、PGCが生殖隆起内に入ります。
 PGC前駆細胞のすべてがPGCになるのではなく、一部のみがPGCになり、残りの大部分が体細胞へと分化する分子機構は、解析が困難だったため、これまでほとんど分かっていませんでした。
 そこで、Azim Surani博士らのグループは、尿膜の基部から断片を回収し、シングル細胞にした後、シングル細胞由来のcDNAライブラリを作製し、differential screeningを行うことで、PGCでのみ強く発現する遺伝子を2つ単離しました。1つは、fragilis遺伝子(interferon-inducible transmembrane protein member)で、その発現パターンは、PGCのoriginとmigrationに一致していました。もう1つは、stella遺伝子(nuclear protein)で、PGCへとlinerageが決定されたPGCで発現が始まり、8.5日胚以降migration 中のPGCでのみ発現していました。
 さらに、PGCと体細胞のmolecular analysisを行った結果、次の2点が明らかになりました。
・ 生殖細胞は、最初は中胚葉に運命付けられている(TやFgf8はPGCと体細胞の両方で
 発現している。)
・ 生殖細胞への運命決定は領域特異的ホメオボックス遺伝子群の発現抑制と関係がある。
(fragilisを強く発現し、Hoxb1やEvx1などを発現しない細胞でのみ、stellaが発現する。)
 
 そこで、histone methyltransferaseに関するPGCと体細胞由来のcDNAライブラリのmolecular analysisを行った結果、PGCでのみ発現する遺伝子Blimp1を単離しました。Blimp1の発現パターンを調べたところ、e6.25日胚の胚体外外胚葉と接するエピブラストで発現が始まり、その後もPGCで発現していました。また、以下のことも明らかになりました。
・ Blimp1とstellaは、同じ細胞で発現が認められるが、Blimp1の方が発現が早い。
・ Blimp1が発現する細胞では、Evx1は発現しない。
・ Blimp1の生殖細胞特異的なコンディショナルノックアウトマウスを作製した結果、ノックアウトマウスでは、PGCが欠損していた。
以上の結果より、Blinp1がPGC前駆細胞で領域特異的ホメオボックス遺伝子群の発現を抑制することにより、前駆細胞は体細胞の運命を逃れて、PGCへと分化するのであろうと推測されていました。