COE外国人研究者等セミナー レポート

 

柳田光俊(脳神経生物学講座 脳システム構築学研究室 村上研)

演題:"Molecular mechanisms involved in the migration of GnRH neurons"
演者:John G. Parnavelas (Department of Anatomy and Developmental Biology, University College London UK)
日時:2006年6月20日(火)13:00〜14:30
場所:ナノバイオロジー棟 3階 セミナー室

 

Parnavelas博士は、大脳における神経細胞について長年研究されている方で、近年は細胞移動に関して多くの重要な研究をなされている。人当たりの良い印象を受けたが、そのためか終始なごやかな雰囲気のセミナーとなった。

講演の内容:

 GnRH(Gonadotropin-releasing hormone;性腺刺激ホルモン放出ホルモン)ニューロンは、視床下部に散在し正中隆起へ軸索を投射している。その正中隆起からは下垂体へGnRHを分泌しているがこの分泌をGnRHニューロンは調節している。このニューロンは、マウスにおいては胎生10−11日目ごろに鼻原基を起源とすると報告されている。そして終神経及び鋤鼻神経繊維に沿ってcribriform plate(篩骨篩板)を通り超えて前脳に侵入していく。更に後方鋤鼻神経線維を伝い前脳基底核で繊維を離れ最終位置である視床下部へと移動していく。人間ではGnRHニューロンの移動の異常が生殖機能不全などの原因となるとされている。また、カルマン症候群(Kallmann's syndrome)は遺伝性発達による無臭症や性腺機能低下症であるが、この原因がGnRHニューロンが篩骨篩板を超えられないためにとどまってしまうという移動の異常によるという事が分かっている。

 GnRHニューロンの移動に関する分子メカニズムについていくつもの分子(GABA, Netrin, NELFなど)が調べられているが、それらの多くは間接的な移動への関与についてであり、嗅球を避け前脳基底核へ移動するためのCueについては分かっていないままである。Parnavelas博士らは嗅球や鋤鼻器とその神経繊維で発現しているReelinに着目した。Reelinは細胞外で機能する分泌性タンパク質であり、大脳皮質や小脳皮質での細胞移動や層形成に関与する分子として広く研究されている。Parnavelas博士らはこのReelinがGnRHニューロンの移動のガイダンスシグナルとしての役割を持つのではないかという事を仮説とした。

 この仮説を検証するに当たって、Parnavelas博士らはGN11という株細胞を使用した。この株細胞はGnRHニューロンの特徴をよく保持しており化学物質による移動性の評価に適していると判断し、GnRHニューロンが前脳基底核で少数でかつ広く分布してしまっているために検証の障害となっていた事をin vitroで回避することが出来るとした。
 このGN11細胞を用いてまずReelinの分泌源として胎生18日のラットの嗅球と共培養実験を行った。その結果GN11細胞は嗅球片から離れる方へ移動した。この反発作用を検証するためにBoyden's chamber assayという方法(走化性と走触性を評価できる)を使用することにより、ReelinによるGnRHニューロンの移動の抑止効果が示された。
更に蛍光トレーサー(CMTMR)を用いたスライス培養によりGnRHニューロンが前脳基底核に侵入してくる部分を蛍光してReelinの遮断剤としてCR-50を培養液に含ませた場合との比較を調べ、Reelinが鼻部から前脳への侵入に関与していることが示された。

 ReelinのレセプターとしてはApoER2とVldlrが有りそれらをダブルミュータントしたマウスと、Reelinシグナル伝達のアダプタータンパク質のDab1をミュータントしたScramblerマウスと、更にReelinが機能しないリーラーマウス(Orleans allele)を使ってそれぞれ胎生期と成体期での脳を染色して調べた。リーラーマウスの胎生18日目と同時期の野生型をGnRHの免疫染色で比較すると、リーラーマウスでは明らかにGnRHニューロンの総数が減っていた。更に大脳皮質ではよく見られるようになっていた。また、成体において同様に調べてもリーラーマウスではごくわずかしか見られなかった。ApoER2とVldlrのダブルノックアウトマウスやScramblerマウスでは野生型とのGnRHニューロンの数違いは見られなかった。
 Parnavelas博士らはGN11細胞でReelinのレセプターであるApoER2とVldlr、そしてアダプターののDab1の発現をRT-PCR法で調べるとApoER2とVldlrは発現していたがDab1の発現は見られなかった。ラットの胎生18日目における脳の切片をGnRHの抗体とApoER2の抗体で2重染色を行ったところ、ダブルラベルされる細胞は5%ほど見られたが、Dab1の抗体とのダブルラベルは全く見られなかった。従ってGnRHニューロンは従来知られているReelinのシグナル経路には反応していないことが示唆された。

 以上の結果からReelinがGnRHニューロンの移動での誘導的な役割をしていることがわかったが、そのシグナル伝達は従来の経路ではなさそうであることが示唆された。
 Parnavelas博士は本セミナーにおいて更にNeuropilin2ノックアウトマウスを用いた実験についても紹介し、GnRH ニューロンが篩骨篩板へ達せず留まってしまっているという結果が得られたということであった。


Reference:
Cariboni, A., Rakic, S., Liapi, A., Maggi, R., Goffinet, A. and Parnavelas, JG. Reelin provides an inhibitory signal in the migration of gonadotropi-releasing hormone neurons. Development 132, 4709-4718 (2005)