COE外国人研究者等セミナー レポート

 

荻野 淳(ナノ生体科学講座  プロトニックナノマシングループ M1)  

演題:Cell signaling cascades that regulate aldosterone production.
演者:
Dr. Noreen R. Francis ( Rosenstiel Basic Medical Sciences Research Center, Brandeis University, U.S.A. )
日時:2004年3月8日(月)14:00〜15:00
場所:生命機能研究科 2階会議室

Noreenさんは低温電子顕微鏡を用いて細菌べん毛の構造、メカニズムについての研究をされている方で、今回は、大腸菌のchemotaxisメカニズムとchemotaxisに関わっているレセプターの構造、そしてべん毛モーターの構成部品の構造についてご自身の研究とともに御講義して頂きました。

1. Chemotaxis
大腸菌は全長1〜2μmの細菌であり、菌外に伸びた直径20nm、長さ十数μmのべん毛を束にして、プロペラのように回転させることによって運動をしている。そして、菌表面の極に局在していることが知られている様々なレセプターがセンサーとなり、栄養、温度などが最適である環境へ移動していくChemotaxisを示す。大腸菌の運動は直線的な泳ぎと方向転換の2種類の運動の繰り返しであり、この運動は菌表面のレセプターが忌避物質、誘引物質と結合することによって制御されている。その際の菌体内で生じる信号伝達メカニズムは、菌表面のレセプターに忌避物質が結合した場合、細胞質にあるタンパク質キナーゼCheAが活性化され、CheA自身の特定ヒスチジン残基がリン酸化される。そしてそのリン酸基がCheYの特定アスパラギン酸残基に移され、リン酸化型CheYがべん毛モーターのある部分に結合して、直線時に反時計方向(CCW)回転しているモーターを時計方向(CW)に回転させる。すると、べん毛の束が解けて菌はタンブルする。逆にレセプターに誘引物質が結合した場合は、CheAのリン酸化が抑制されてリン酸化型CheYの量が減り、モーターがCW回転する確率が減少する。つまりモーターはCCW回転して菌はスムーズに泳ぐ。また、環境への適応はレセプターの可逆的メチル化によって起こり、レセプターに忌避物質が結合するとCWシグナルの発生に伴い脱メチル化が進み、最終的にシグナルが打ち消される。レセプターに誘引物質が結合するとCCWシグナルの発生に伴ってメチル化が進み、シグナルのない状態に戻る。

2. Structure of soluble receptor complexes
Chemotaxisレセプターの1つにアスパラギン酸レセプターTarがある。今回、このレセプターを低温電子顕微鏡で観察するためにそのCytoplasmic DomainにLeucine Zipperを付加した可溶性Lz-Tarを作り、この試料で実験を行った。得られた電子顕微鏡像は、両極性の円柱の束のような形であった。多くの電子顕微鏡像から同じ方向を向いている像だけを平均化し、それらを用いて逆投影法により3次元像再構成を行った。そして、得られた3次元密度マップにLz-Tarのはめ込みを行い、可溶性Lz-Tar複合体内でのLz-Tarの配置を具体的に特定することを試みた。その結果、可溶性Lz-Tar複合体はLz-Tarの2量体の3量体がTar複合体のノブのようにみえる部分の中央に存在し、そのC末端はTar複合体の中空部の表面にあることが分かった。また、CheA、CheWはLz-Tar複合体の中央に位置している可能性が示唆された。Noreenさんは今後、CheA、CheW、CheYそしてCheRの結合部位の特定を低温電子顕微鏡で行っていきたい、と話されていました。

3. Structure of the rod , junction and the rotary motor of the flagellar apparatus
大腸菌のべん毛は大きく分けてフィラメント、フック、基部体の3つの部分からできている。フィラメントの先端にはHAP2で構成されたCapタンパク質が付いており、フィラメントとフックはHAP3とHAP1とで構成されたJunctionタンパク質で接続されている。そして、基部体はべん毛モーターのドライブシャフトの役割をしているrod、軸受けの役割をするLP ring、モーター回転子の役割をするMS ring、そしてトルク発生と反転制御に関わるC ringといったもので構成されている。
Noreenさんは電子顕微鏡を用いてこれらの構造の解明を行われている。まずHAPタンパク質について、フィラメント部がなくJunctionの上部にCapタンパク質HAP2が直接結合している、SJW2811のべん毛フック基部体を単離し、低温電子顕微鏡で撮影し、Junction部(HAP1、HAP3)、Cap部(HAP2)の3次元像再構成を行った。そして、HAPにおける予備的な3次元像を構築された。
次にFlgB、FlgC、FlgF、FlgGからなるrodの電子顕微鏡像の3次元再構成を行い、rodもフィラメントやフックとほぼ同じらせん対称性を持つチューブ構造であることを示唆する3次元像を示された。
そしてべん毛モーター基部体の電子顕微鏡像から、FliG、FliM、FliNから構成されていると考えられているMS ring、C ringの3次元像再構成を行い、基部体中心を貫通する蛋白質輸送チャネルや、MS ring、C ringの構造を示された。
Noreenさんは今後もべん毛モーター構成部品の構造解析を進めて、C ringにおいてはFliG、FliM、FliNの配置を同定し、トルク発生メカニズムの解明に役立てたい、と話されていました。